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寒川地区-取材後記「それぞれの防災と未来への選択」2015年9月の関東・東北豪雨と、2019年10月の台風19号の影響で被災した寒川地区の人たちは、私たちが取材に伺った時、今現在のことを考えるので精一杯な状況でした。しかし、「人が集まるようなことを考えていかないといけない」という“押切杣井木(ソマイギ)川被災者の会”の杉本勝彦さんの未来志向から、私たち取材班は人と繋がる寒川地区の未来を想像して記事を書くことができました。
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今回は取材後記として、2024年の時点での感想を記します!
未来の主役は、“土地”じゃなくて“人”だ!
今回のテーマである「防災集団移転」は私たちにとっては馴染みがなく、当初は具体的なイメージが湧きませんでした。そこで寒川地区の豪雨災害の記事を読み、水害や対策について理解を深めてみるところから始めることにしました。
記事を書き始めた初期の頃は、移転し残った“土地”そのものに焦点を当て、移転跡地を巨大なプールや大規模な釣り堀を作るなどかなり実現の難しい案ばかり考え、行き詰まっていました。
しかし、下村教授からの「移転した人たちの2054年について考えるといいんじゃない?」というアドバイスを受け、故郷を離れる“人たち”に焦点を当て直した事で記事の方向性を固めることができました。
水害時のリアルと、平時のリアル
記事完成への手がかりを得て、杉本さんに取材に行きました。その取材では小山市治水対策課の方々にも同席してもらい、集団移転事業や宅地嵩上げの資料を見せていただきました。取材班が特に印象に残ったのが、2015年の豪雨でテレビ台の高さまで浸水した杉本さん宅の様子の写真です。水に浸かったら困るものを中心に2階へ運び、1番重いものでは仏壇を避難させたそうで「往復で疲れてしまった」と当時を振り返っていました。
杉本さんの奥さんは生き延びるため、冷凍食品と電子レンジを持って2階へ避難していたそうなのですが…
「コンセントの中に水が入っちゃうから電化製品は使えないんだけどね(笑)」と杉本さんは当時を思い返しながら私たちに話してくれました。
杉本さんから見せていただいた水害の写真を基に周辺の場所を見に行くと、小川に架かる小さな橋が。ここも水害時には川と橋の境目が分からなくなる程一面水に覆われていたそうですが、今はとても穏やかで、早々に取材班は橋の下の魚に夢中になってしまいました。こうやって、人は平時には油断をしてしまうんですね…
留まる人たちの想い 輪中堤という選択
移転ではなく、留まることを選んだ中里自治会の方々にも話を聞きに行きました。中里の一部住民も、寒川の杉本さんたち同様に水害に見舞われ、2015年の豪雨では自治会長の松本文夫さんはやっとの思いで辿り着いた避難所が人数制限で入れない状況だったそうです。副会長の田中康弘さんは家が床上浸水しカビが発生したことで、壁と床を全てリフォームするほどの被害を受けました。
他の住民も二度の大きな災害を経験して、中には移転を望む人がいたかもしれないし、必ずしも全員が輪中堤に賛成したわけではなかったそうです。
しかし松本さんたちは、中里に住む高齢者たちが集団で移転できたとして「新しいところで何年生きられるか、費用はどうするのか」を考えて、住民の自己負担がない輪中堤を選んだと教えてくれました。
新たな土地で、人と次世代と繋がる未来
その後、記事を書きあげていく中で、寒川の人たちの移転先に決まっている塚崎地域が既に「未来発!おやまノート」で描いた大谷地区であることに気づき、それらの記事と絡め、関連性のある内容を入れ込むことにしました。
元々の塚崎住民と移転して来た人たちが仲良くなるためにできることは何か?を考え、そこから実現可能なイベントを中心に、大谷北・中部地区の「ママ’sマルシェ」や大谷南地区の「農村ヴィレッジ」などの人々と触れ合う未来をリンクさせました。なぜなら、この「未来発!おやまノート」に連載している各記事は、みんな同じ2054年に並んで起きていることなのですから!
大谷地区の未来記事はこちらからご覧いただけます。
大谷北・中部→https://oyamavision.com/column_report/567/
大谷南→https://oyamavision.com/column_report/667/
今回の取材から、自然災害のリアルな体験談をお聞きしました。災害を全くゼロにすることはできないけれど、試行錯誤して寒川地区の新たな未来を考えることができました。
本編の記事を読んで下さった方も、防災について改めて考える機会にしていただけたなら嬉しいです。
2024年の取材時には、《近くの未来》について懸命に考えていた寒川地区の方たち。2054年には、きっと《遠くの未来》に続く安心安全を考えていることでしょう。
白鴎大学地域メディア実践ゼミ(諏訪千咲、室岡巧輝、栗島伶児、清水隆壱)
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