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桑地区 Kuwa
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田園環境都市おやまビジョンづくりに向けた小山市11地区の風土性調査
桑地区 報告レポート「基礎資料・概要版」
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桑地区の風土性調査について
「風土」とは、地域の自然に対して人間が暮らしと生業を通して、働きかけることでかたちづくられる、人々が生きる環境のこと*を言います。人々が生きる環境、それは私たちの身近な世界、生活世界のこと**でもあります。
地域の風土(生活世界)を 、あらためて把 握するために 、
①地理学や民族学的な視点で地域を見て歩く「踏査」(現地調査)
②アンケートや聞き取りを行う簡易社会調査
③小山市史や研究論文などにあたる文献調査
これらを組み合わせた風土性調査 を実施しています。
桑地区は令和5年8月から10月の期間に調査を行いました。
この概要版は、その調査成果の報告レポート「桑地区 基礎資料」から主なトピックを抜粋し、一部に加筆を加えたものです。報告書の完全版(A4版75ページ)やアンケート集計結果報告書(同・67ページ)は、最後に紹介するリンクから閲覧ができます。
*註1:出典 薗田稔編『神道』(弘文堂、1988年)
**註2:出典 アルフレッド・シュッツ、トーマス・ルックマン『生活世界の構造』(筑摩書房、2015年)
1|桑地区の概況
小山市の基本地形と桑地区の位置
西から思川低地、宝木(たからぎ)台地、鬼怒川低地が並び、宝木台地の東を鬼怒川、西を思川が流れています。桑地区は小山市の北部に位置し、おおよそが宝木台地の上にあります。
小山市の北部に位置。
街道が分かれ、川は合流し、
近世には宿場と河岸が充実。
桑地区は、明治22年(1889)の町村制施行にあたり羽川宿、飯塚宿の二宿と東山田村、北飯田村、萱橋村、鉢形村、向野村、出井村、荒井村、喜沢村、南半田村、三拝河岸村の十村が合併した桑村をもととします。地区の面積30.57km2は市の面積の約17.8%、人口20,763人は市の人口の約12.5%を占めます。(令和4年4月1日現在。「令和4年度版小山市統計年報」より)。古来交通の要衝とされてきた小山市の中でも、日光街道の宿場が羽川に置かれ、喜沢で日光西街道が分かれて飯塚が宿場とされ、思川と姿川の合流点付近に河岸が四つあり、日光東街道が北飯田、東山田を通るなど、特に近世の桑地区は交通面で重視されました。
今日の桑地区は、13の大字名(上に挙げた二宿十村に東島田が加わる)と一つの町名(扶桑)で呼ばれる14の区域から成り立ちます。このうちかつての日光街道の宿場を中心とした範囲(羽川、喜沢)と工業団地(萱橋、北飯田、荒井、出井)が市街化区域に指定されます。
2|台地の上に残された水と緑のモザイク
桑地区の大半は宝木台地の上にありますが、地区の北西を流れる姿川の西岸が鹿沼台地に属します。姿川の他にも水は台地の上に谷を幾筋も刻み、谷と谷の間には平地林が残り、これら谷と平地林が折り重なる風景が広がります。
樹林の開発は進むものの
谷と平地林が折り重なった姿が
地区の環境の基本形といえます。
宝木台地は、2.5~3.5kmの幅で北から南へのび、小山市の北縁で約5.5km、南縁で約25kmに広がります。この幅の変化が関係してか、台地北部の宇都宮市で釜川や新川を除く谷は短い距離で東西の低地へ下りていますが、南部では上三川町から台地の上を長くのびる谷が増えます。桑地区では、これらの谷の起点や合流点の下流側にため池が5ヶ所つくられました。そのうち、広さや水量は変わりましたが、地区東部に西仁連川(にしにれがわ/江川)水源地の弁天沼と同川の支流につくられた山田沼および四ツ沼、地区中部には大沼と、今も4ヶ所があります。琵琶塚古墳の東側に、姿川の旧河道も残ります。
陸地の水域は、川や水路など水が流れる動水、沼や池など水が止まる静水、湿地の3つに大別でき、桑地区では大小の動水、静水、湿地からなる水辺が、平地林や農地と共に水と緑のモザイクをかたちづくっています。開発が進む中、こうした環境を求める生き物が地区に留まっています。
3|地下水をはじめとした水の利用と農業
宝木台地は、主に思川や鬼怒川が運んだ土砂からでき、その中を地下水が通っています。弁天沼や白鬚神社の湧き水「御神水(おみたらすい)」は、地下水を水源としています。
市内の台地の上には深さ7m未満の井戸が多く、桑地区では全体に分布していました。大きな川はなくても井戸水や湧き水、雨水が暮らしや農業に使え、人々は谷に田をつくり、高台には主に肥料や燃料を得る平地林を残した他、畑と樹園地を拓きました。平地林では、木々の枝葉や幹を雨水が伝い下り、表土に染み込んで水が養われました。やがて新田開発などのために水がより多く求められるようになり、明治期に機械揚水技術が導入されてからは姿川や思川から水が引かれました。
こうした桑地区の農業について、経営耕地面積(「令和4年度版小山市統計年報」)を参考に見てみます。地区の農家が経営する畑334.2ha、樹園地33.81haとも市内の地区中1位で、それぞれ市全体の約34.7%、約44.9%を占めます。樹園地には、果樹や庭木、山苗(林業種苗)が植えられます。
4 |桑地区での暮らしと意 識
前半で概況を紹介したような地形や都市の形成の歴史の上に、人々はどんな意識でどのような暮らしを営んでいるの でしょうか。無作為抽出による郵送アンケートを2500世帯を対象に実施し(回答724件うち締切内着など有効数 706件、回収率25.4%)、また3グループ合計16名の方に聞き取り調査にご協力をいただきました。その成果から一部 を抜粋し、この章では住民の方々の声も交えながら紹介します。
4-1 アンケート調査からの報告
アンケートの設問【1】【2】の集計結果をもとに、桑地区でクラス人々の出身地、移り住んだ経緯や理由、生活圏、地域資源への認知度・関心度についてまとめました。
回答者の約2割が桑地区生まれ、それ以外の8割が地区外で生まれ育ち、桑地区へ移り住まれた方になります。移り住んだ理由のコメントでは、最多が「仕事上の理由」(コメント167件)、次に「桑地区に縁がある方との結婚」(同149件)となります。仕事、地縁、血縁とは関係なく、桑地区が気に入って家や土地を購入した人も(同72件)少なからずいらっしゃいます。
●地域資源への認知度・関心度
認知度・関心度ともに(自然>農業>歴史資源)という順になります。認知度は15%~28%と低めですが関心がないわけで はなく、まちなかに残る自然への関心は5割を超えています。
●生活圏
以下の3種類の行動で出かける地域を訪ねた質問の回答、上位3地域を示します。休みの日についての問いは2つ選択可とし、表の数字は回答者のうち何% がその地域を選んだかを表します。日常生活では桑 地区内で完結している人が半数を占めますが、特別な買い物では小山地区・宇都宮市へ、休みの日のリフ レッシュでは県内各地へと生活圏が広がっています。 県内各地の内訳上位は、那須町、日光市、下野市、栃 木市、鹿沼市です。
4-2 無くしたい、解消したい、桑地区の困りごと
アンケートの設問【4】で「無くしたい、解消したい、解決したい困りごとは、何でしょうか?」と問い、聞き取りをも とに用意した選 択 肢から3つを選んでもらいました。その集計結果が上の棒グラフです。
下のグラフは、その他と無記入を除いた選択肢を 、5つの領域に分けて全体に占 める割合を出してみたものです。
移動や生活環境での問題が切実なものに
上のグラフが示すように、生活環境に関することと移動や交通の諸問題が、桑地区の皆さんにとっての切実な困りごととなっています。買い物については、117名の方が不便と回答する一方で、次の「大切に守りたいこと」では、その利便性を守りたいものとして213名の方が選択しています。地区の中でも店舗が多いエリアと店舗がほとんど無いエリアがある実情の反映だと言えます。年代別での特徴は、40代以下で「子どもが外遊びする場所の少なさ」が最多および2番目、50代以上で「公共交通の不便さ」が最多となっています。その他では「平地林伐採・自然破壊」「小学校が遠い」「スポーツ施設が無い」などがあがりました。
次に、桑地区の解消したい困りごとについて、アンケートの設問【4】に寄せられたコメントとグループインタビュー (1自治会長さんのグループ2子育て世代のグループ3農業従事者のグループ、合計16名)で語られたご意見の一部を紹介します。
ひとり暮らしですが、災害などの時、
隣人とのコミュニケーション全くなく
常時不安を感じています
———アンケート【4】自由記述より
公共交通の不便さ、道路状況の悪さや渋滞を解消したい
●おーバスの路線や停留所の位置など住民ニーズと合っていないのでは ●バス停に自転車置き場も無く、バス停まで徒歩で行けない人にとても不便 ●出井のコンビニより西の道は通学路なのに道が狭く車の混雑と渋滞でとても危険
買い物の不便さなど生活環境を改善したい
●今は良いが免許を返納したら桑では生活できない ●幹線道路沿いのゴミのポイ捨てが本当に多すぎる。ゴミ出しマナーも悪い人は悪い。当番の時は苦痛。
少子高齢化で互助活動のあり方を見直したい
●高齢になって、自治会の集まりや自治会の仕事などやっていけるのか心配 ●班長の負担が多く辛い。一年間辛抱して活動しました ●自治会のあり方を早期に見直した方が良いと思う。
子どもを取り巻く環境を改善したい
●公園や児童館が少なすぎて、子どもの遊ぶ場所がない ●自然環境も残しつつ、子どもたちが思いきり遊べる遊具や広場もあるような公園があるといいな。保護者同士や地域の方々のコミュニケーションもはかれるのではないか。
——以上、アンケートの自由記述、グループインタビューの聞き取りでのご意見を紹介しました。
4-3 大切に守っていきたい、桑地区の小さな自慢
アンケートの設 問【 5 】で「 大切に守っていきたい 、桑地区の「 小さな自慢 」は何でしょうか ? と問い、聞き取りをもとに用意した選択肢から3つを選んでもらいました 。その集計結果が上の棒グラフです。
下のグラフは、その他と無記入を除いた選択肢を 、6つの領域に分けて全体に占 める割合を出してみたものです。
生活の利便性は保ちながら、残された自然を守りたい
桑地区のアンケート回答者の方々の、3人にひとりが大切に守りたいこととして「まちなかに残る自然」「買い物の利便性」を選択しています。また、領域を上の棒グラフのように6つに分けて見てみると、地域の歴史的資源(史跡、寺社、建物、古木、伝統芸能など)、生活の利便性(交通・買い物)の領域への関心が高いことがわかります。年代別では、20代、40代、50代の方々では「まちなかに残っている自然」が最多、30代は「買い物の利便性」が最多、60代、70代の方々では「地域に残る歴史ある史跡、神社やお寺」が最多となっています。(詳細は「アンケート集計結果報告書」に掲載)
次に、桑地区の大切に守りたいことについて、アンケートの設問【 5 】に寄せら れたコメントとグループインタビュ ー (①自治会長さんのグループ②子育て世代のグループ③農業従事者のグループ、合計16名)で語られたご意見の一部を紹介します。
各地の神社、お囃子、祭り、
養蚕、古墳群など、
子どもたちにしっかり伝えたい
——子育て世代グループインタビューより
平地林などの自然環境を守りたい
●今まで気にしていなかったが、平地林(雑木林)がこの数年で一気になくなっ
て嫌な町になったなと感じている ●自然豊かな環境をこわさず残してほしい!又、過度な開発もしてほしくない。急激な開発により住宅だらけになり、いろんな人が大量に入る事により地域住民や自治会との亀裂が生じている事例もある ●豊かな自然の中で、はぐくまれる尊いもの、人々の心の潤いを感じる大切なもの、桑地区がもつ魅力は、まちなかの持つ特色とは違って、その辺りにあると思います。田園環境都市の中にステキな音楽が流れるような,そんな未来を期待してもいいでしょうか!
歴史的な資源、コミュニティの繋がりを守りたい
●神社やお寺などは古くからこの地区を見守ってきており、暮らしている人々の心の拠り所や、安寧を求める場所になっているので大切にしたい ●自治会、育成会、PTAなどさまざまな主体や連携してのイベントや行事は、移り住んできた親子が参加したり、子供の心に残って将来につながったりする意味がある
——以上、アンケートの自由記述、グループインタビューの聞き取りでのご意見を紹介しました。
5|田園環境と都市環境の調和がとれたまちづくりへ
次に、アンケート集計結果より「 2 0 年後 、 3 0年後の小山市の望ましい都市環 境のあり方について」尋ねた【 7 】の結果を紹介します。例示した小山市の将来 像 7 項 目について 、それぞれ「そう望む・どちらかと言えば 望む・どちらかと言えば 望まない・望まない・わからない 」から選んでいただきました。桑地区の皆さんからの、未来の小山市への視点です。
どちらかと言えば「開発より保全と循環」+「脱・車社会」を支持する声が
7項目は、A/G/Dがどちらかというと「開発志向」の内容です。大きな差異が出たわけではありませんが、先に同じ設問で調査を終えた他の地区(豊田・小山・大谷北部中部・大谷南部)と同様に、総じて、「商業・工業が発展し経済的に発展すること」「平地林や空き地に宅地造成を進めること」より、「農業・環境保全を大切にすること・空き家などあるものの利活用をすること」への支持・共感が高い傾向にあり、また、車社会としての利便性より、車がなくても移動しやすい環境を望む声が上回っています。
20代に着目して年代による差異を見る
「そう望む」という積極的支持の割合を、年代別に見ていくと、20代の支持が他の年代より15%〜20%上回っている項目があります。(B)地域の農業が大切にされ〜(最多20代:65%>最少40代:47%)、(C)環境保全型の農業が(G)車社会に対応して〜(最多20代:65%>最少70代〜:31%)。アクティブに車で行動し、なおかつ、地産地消や環境保全型の農業、空き家の利活用を志向している人たちが少なくはない年代のようにこのデータからは読み取れます。
次に設問【7】の自由記述欄(30年後へのご意見)に寄せられたコメント全件で多用された言葉を紹介します。テキス トマイニングという解析ツールによるキーワードの抽出です。基本的には語られた回数が多いもので大きく表示され、 調査対象に特徴的に使用される「おーバス」などの固有の単語は重視される統計処理法が用いられています。一つの 参考としてご覧ください。
自然災害が少なく安心、安全に暮らせることが一番です。
高齢化が進むので、スーパーなど地域に根ざした店が増えて
便利な「住みやすい」街がいいですね。
——アンケート【7】自由記述より
次に、主なキーワ―ドごとに、アンケートの自由記述や聞き取りからのコメントを少し紹介します。
公園
●公園も広いだけでなく、水の流れや日陰があり、林や木を利用した公園が良い ●公園が少なすぎる。もっと増やすべき。人口だけ増えてもそういったことに理解がないとすみ続けたいとは思わない
整備
●食料不足に陥っても、民の食糧事情が貧困にならないよう、段階的にの農業を振興整備していくようお願いします ●他に整備を希望するものとして「公園」「道路」「インフラ」「上下水道」「外国人受け入れの法整備」「小山駅周辺の環境整備」があがって
います。
開発
●平地林の開発が進んでいるのが現状です。(ここ1~2年で無くなりました。ミミズクやカッコー、オオタカがいなくなりました) 平地林を作るのに百年かかると専門家は言っています。環境にとって大損失です。市の条例にてこれ以上乱開発をやめさせてください ●新たな宅地開発はやめて、空き家が多い旧住宅街の改修を
おーバス
●おーバスの本数を増やしてほしい ●暑い中、日陰がない停留所でずっと長く待っている人をよく見かけます ●おーバス羽川線の慣性的な遅延を解消してほしい ●できればスクールバス化してほしい ●萱橋地区のおーバス開通を前向きに検討して頂きたい
未来への提案や希望
アンケートの自由記述やグループインタビューで語られた、未来の桑地区や小山市の姿について、 「こうなったらいいな!」という希望や提案を含むご意見を紹介します。