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大谷南部地区 Oyananbu
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田園環境都市おやまビジョンづくりに向けた小山市11地区の風土性調査
大谷南部地区 報告レポート「基礎資料・概要版」
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大谷南部地区の風土性調査について
「風土」とは、地域の自然に対して人間が暮らしと生業を通して、働きかけることでかたちづくられる、人々が生きる環境のこと*を言います。人々が生きる環境、それは私たちの身近な世界、生活世界のこと**でもあります。
地域の風土(生活世界)を 、あらためて把 握するために 、
①地理学や民族学的な視点で地域を見て歩く「踏査」(現地調査)
②アンケートや聞き取りを行う簡易社会調査
③小山市史や研究論文などにあたる文献調査
これらを組み合わせた風土性調査 を実施しています。
この概要版は、その調査成果の報告レポート「大谷南部地区 基礎資料」から主なトピックを抜粋し、一部に加筆を加えたものです。報告書の完全版(A4版67ページ)やアンケート集計結果報告書(同・59ページ)は、最後に紹介するリンクから閲覧ができます。
*註1:出典 薗田稔編『神道』(弘文堂、1988年)
**註2:出典 アルフレッド・シュッツ、トーマス・ルックマン『生活世界の構造』(筑摩書房、2015年)
1|大谷南部地区の概況
小山市の基本地形と大谷南部地区の位置
小山市の西部で思川が、東部で鬼怒川が低地を掘り下げ、これら思川低地と鬼怒川低地の間に宝木(たからぎ)台地が掘り残されています。宝木台地の上、小山市の中央部の南側に、大谷南部地区は位置します。
小山市の中央部南側、台地の 上にあり、
全域にわたって 田園環境が形成される地区
大谷地区は、地区全体としては明治22年(1889)の町村制施行に際して北部・中部の10村と南部の塚崎、武井、野田、泉新田の4村が合併した大谷村をもととします。地区の面積30.39km2は市の面積の約17.7%、人口43,700人は市の人口の約26.1%を占めています(令和3年4月1日現在。「令和3年度版小山市統計年報」より)。
今日の大谷南部地区では、野田、泉新田が周辺の同名地区と呼び分けるために東野田、南和泉と大字名を変えています。また、東野田は、東野田東、東野田西、高松、六軒、荒井原の5つの自治会区に分かれ、塚崎、南和泉、武井とあわせて8つの自治会区から当地区が成り立ちます。
大谷南部地区は、全域が市街化調整区域に当たり、台地上の尾根に集落、寺社、畑地、果樹園、平地林、谷に溜池、水田のある田園環境が保たれてきました。しかし、現在は高齢化などから農地の維持が難しくなり、交通事情から生活環境に影響が及ぶといった問題が生じてもいます。
2|地名と地形
宝木台地の上は、南にゆるく傾斜しています。台地の上に降った雨や湧き出た水は、この傾斜に沿って流れながら幅200~300mの南北にのびる浅い谷を刻みました。大谷地区の東西にはそれぞれ西仁連川(江川)と大川がつくる谷があり、「大谷」の地名はこうした地形からつけられたと考えられます。
大谷地名の由来とされる谷は、 暮らしと農業のほか、
ここでは 製鉄にも向いたと考えられます
今から約258万年前から1万1700年前、完新世と呼ばれる時代に、川が運び下ろした土砂が積り、現在の大地の原形ができました。約2万年前の氷期には、氷河が広い範囲にできて海面が下がり、陸と海の高低差が増して川が地表を削る力が強まり、思川低地と鬼怒川低地が掘り下げられ、その間が掘り残されて宝木台地となりました。火山灰が飛来してその上を覆い、地下水が土砂や火山灰の中を流れ、台地の上で湧き出し、雨水と共に浅い谷を刻みました。西仁連川や大川が流れる谷が、それです。
このように水が得やすい一方で、谷をはさんだ尾根に住めば水の氾濫に遭わずに済み、大谷北部・中部地区と同じく、塚崎遺跡や金山遺跡で旧石器時代の遺物が見つかるなど、古くから人が住んだ形跡があります。また、鏡田遺跡に平安時代の製鉄炉跡、金山遺跡に鍛冶関連遺構、橋向遺跡に9世紀中頃の鍛治工房跡が遺るなど、古代の金属鉱業に関した遺構が集中することは特徴的です。西仁連川と大川が、原料の運搬に利用されたと考えられています。
3|台地の上の田園環境
大谷南部地区の集落は、いずれも軸となる道路に沿ってその両側または片側に民家が列状に並んだかたちとなっていて、六軒自治会区ではこのように民家が沿う道路がロの字型につながって畑地を囲んでいます。
六軒自治会区の中心部は、家々が沿う生活道路が畑地を囲み、地区外に対してはやわらかく閉じつつ内部の道と畑地が集落の共有空間のように感じられる地域環境がかたちづくられています。また、その外側は平地林や果樹園に囲まれています。樹林を、肥料と燃料を採ることや風除け、火除けとすることなどを目的に伐り残した中に、家屋と庭や畑とする場を拓いたということなのでしょうが、今日的には、食料安全保障、生物多様性保全、気候危機の対策に当たる低炭素化などの公益的機能も合わせて評価できます。
道、民家、田畑、果樹園や平地林が連続する環境は、地区全域に見られます。ただし、通過する自動車の量などの差が各所の生活環境の質を違えています。その改善は、地区をよりよくする大きな要因と考えられます。
上の写真は、2023年6月7日から25日にかけて地区各所で撮影した果樹、野菜等。
大谷地区全体で見ると、農産物の作付面積の約49.7%を稲、27.8%を野菜が占めます。野菜では、レタス、白菜、キャベツ、トマト、キュウリ、ブロッコリー、ナスなどが主に栽培されているとの統計が公開されています(農林水産省「2020年農林業センサス 第1巻 都道府県別統計書(栃木県)」)。この他、踏査では自家消費分も含めてクリやウメ、カキ、ビワ、クワ、ポポー、ブルーベリーなどの果樹、タケノコ、茶、トウモロコシ、カボチャ、ジャガイモ、サトイモ、オクラ、ネギ、シソ、イチゴ、麦類などの栽培されている様子や栽培施設を確認しています。
4 |大谷南部地区での暮らしと意識
前半で概況を紹介したような地形や都市の形成の歴史の上に、人々はどんな意識でどのような暮らしを営んでいるの でしょうか。自治会役員の皆様の協力をいただき、加入全世帯を対象としたアンケート(回答:517通:回収率70.5%、 インターネット回答4件)、3グループ計16名の方々に聞き取り調査を実施しました。その成果から一部を抜粋し、この 章では住民の方々の声も交えながら紹介します。
4-1 アンケート調査からの報告
アンケートの設問【1】【2】の集計結果をもとに、大谷南部地区で暮らす人々の出身地、移り住んだ経緯や理由、生活圏、地域資源への認知度・関心度についてまとめました。
回答者の62.2%が大谷南部地区で生まれ育った方で、この割合は大谷南部地区と同様に田園環境にあり自治会加入世帯を調査対象にした生井地区・豊田地区とほぼ同じ割合となっています。30.7%が地区外から移り住んだ方ですが、その理由として最も多かったのが他地区のような「仕事」「結婚」ではなく、「実家や親との関係(実家がある地区だから・親の介護など)」。他地区より家との結びつきを大切にする土地柄がうかがえます。
●地域資源への認知度・関心度
地域資源への認知度は、都市化が進む大谷北中部に比べ3項目の平均で約10%高くなっています。また、関心度の高さは、若干の差ですが(自然環境>農業>歴史資源)の順です。
● 生活圏
以下の3種類の行動で出かける地域を尋ねた質問の回答、上位3地域の結果です。間々田地区と茨城県(結城市・筑西市・古河市・つくば市)が生活圏エリアであることが大谷南部の特徴と言えます。
4-2 無くしたい、解消したい、大谷南部地区の困りごと
アンケートの設問【4】で「無くしたい、解消したい、解決したい困りごとは、何でしょうか?」と問い、聞き取りをも とに用意した選択肢から3つを選んでもらいました
その他と無記入を除いた選択肢を、5つの領域に分けて全体に占める割合を出してみると・・・。
移動に関する問題と担い手不足が深刻な大谷南部地区
上のグラフが示すように、道路状況の不具合からくる諸問題や公共交通の不便さ、そして、人口減少と農業や地域活動の担い手・後継者不足の問題で6割を超える結果となっています。このことについては、次のページで地域住民の方々のコメントを紹介します。
回答で「その他」を選んだ方からは、「ソーラーパネルが増えて景観や自然環境を壊すこと」「重機が並んでいる風景」「ゴミステーションの不足」「結婚難」「ハクビシン、イノシシ、アライグマなどの獣害の増加」などのコメントがありました。
次に、大谷南部地区の解消したい困りごとについて、アンケートの設問【4】に寄せられたコメントとグループインタビュー (1自治会長さんのグループ2子育て世代のグループ3農業従事者のグループ、合計16名)で語られたご意見の一部を紹介します。
30年後は自分たちも高齢者。
バスもなく不便なところで暮らしていけるか不安。
若い人が田園地帯に、高齢者が都市部に
住めるようになれたら良いと思う。
—子育て世代グループインタビューより
道路状況の悪さと朝の交通渋滞を解消したい
●新4号が出来てから、小学校の通学路にも拘らず、通学時間帯に大型自動車の通行が激しすぎて、渋滞が起きている。早く解消を! ●歩道もなく、大型車の通行も多いので、子どもが遊びに行くにも親の送迎が必要。一人で歩かせられない。 ●自転車通学の子どもも多いのに、車と自転車の区別がはっきりしない道路が多すぎる。他の県から来て何十年と経つが全く変わっていない。
買い物の不便さ・公共交通が無い状況を変えたい
●大谷南部地区にも「コミュニティバス」を走らせてください。バス停を近くにしてください。「新小山市民病院」「大谷公民館」まで歩いて行かなくてはなりません。とても大変です。●公共交通の不便さを解消したい。バスが通ってないので、免許を返してしまったあとが心配だから返納できない。
人口減少と農業の担い手・後継者不足をなんとかしたい
●後継者がいなくなる多くの農地の管理が不安です。●耕作していない農地の雑草が道路をふさいでいる。●市街化調整区域で家も建てられないので、農家の子どもたちも外へ出て行き、人口減少が加速している。●市街化調整区域の規制緩和、ある程度の改正が必要だと思う。若い人や子どもたちが住んで活性化することが、地区の未来を考えるときの基本ではないか。
環境を保全し、景観を損なわないように
●ソーラー発電や、自動車の解体業が増加し、林の伐採が多く自然の破壊が進んでいる。 ●田、畑、川、山へのごみのポイ捨て、不法投棄がひどすぎる。●今のままでは、30年後はヤード(中古車置き場)とソーラーパネルだけの地区になってしまう。
4-3 大切に守っていきたい、大谷南部地区の小さな自慢
アンケートの設問【5】で「大切に守って行きたい、大谷南部地区の「小さな自慢」は何でしょうか?」と問い、聞き取りをもとに用意した選択肢から3つを選んでもらいました。
その他と無記入を除いた選択肢を、6つの領域に分けて全体に占める割合を出してみると・・・。
先人から引き継いだ歴史的資源や地域の繋がりを大切に
大谷南部地区の皆さんが大切に守り未来につなぎたいと考えているもの、小さな自慢だと考えているものは、上の2つのグラフが示すように、歴史的資源と地域の繋がりに関するもので6割を超えます。年代別で少し差がある項目を紹介します。「消防団や自治会活動等、地域の助け合いの活動」は、30代40代では4番目、50代では3番目、60代70代〜では2番目と順位が上がります。「まちなみや景観」は、30代では1番目、40代では3番目、50代60代では4番目、70代〜では8番目と順位が下がります。次の章で地域住民の方々のコメントを紹介します。
回答で「その他」を選んだ方からは、「自然災害のリスクの少なさ」「のどかなところ」などのコメントがありました。
次に、大谷南部地区の大切に守りたいことについて、アンケートの設問【5】に寄せられたコメントとグループインタビュー (1自治会長さんのグループ2子育て世代のグループ3農業従事者のグループ、合計16名)で語られたご意見の一部を紹介します。
子どもたちは、地域の高齢者の方々に
見守ってもらっていると実感している。
子どもたちも高齢の方を思いやる気持ちが
育っていると思う。
—子育て世代グループインタビューより
歴史的な資源、コミュニティの繋がりを守りたい
●大谷南小学校にある「大王松」(記事冒頭の写真)。昔、築山の松として我々は小学校を進級するたび、その松の前で記念撮影をしていた。大切にしてほしい。●「おかげさま」「お互いさま」地域住民の繋がりが結びついている事 ●のどかでとても住みやすいと感じています。過疎化が進む中で、若い人と高齢の方の暮らしの調和大切にしていきたいと考えています。●三世代同居の家も多く、どこも祖父母が子育てに協力的で助けられている。●30年後、子どもの数が減っても小学校は残したい。地区の人々を結んでいる大切な学校なので。
平地林などの自然環境を守りたい
●自然環境がよく、子育てによい地区だと思う。●絶滅危惧種などの希少生物が生息できる自然環境を守りたい。●町が近代化するのは良い事ですが、自然がなくなっていくのが残念です。●何らかの対策を講じないと、大谷南部地区に残る平地林は姿を消してしまいます。●昔は山(平地林)を持っていると農家が堆肥にするため「落ち葉さらい」をしてくれた。今は荒れ放題。なんとかしたい。●孫を小川に連れて行くと、ザリガニを採ったりして楽しそう。自然がなくなってきたが、残っている自然は未来に残したい。
5|田園環境と都市環境の調和がとれたまちづくりへ
次に、アンケート集計結果より、「20年後、30年後の小山市の望ましい土地環境のあり方について尋ねた【7】の結果を紹介します。例示した小山市の将来 像7項目について 、それぞれ 「 そう望む・どちらかと言えば 望む・どちらかと言えば 望まない・望まない・わからない 」から選んでいただきました。大谷南部地区の皆さんからの、未来の小山市への視点です。
どちらかと言えば「開発より保全と循環」+「脱・車社会」を支持する声が…
7項目は、A/G/Dがどちらかというと「開発志向」の内容です。大きな差異が出たわけではありませんが、同じ設問で調査を終えた他の地区(豊田地区・小山地区)と同様に、総じて、開発志向の「商業・工業が発展し経済的に発展すること」「平地林や空き 地に宅地造成を進めること」などの項目より、「農業・環境保全を大切にすること・空き家などあるものの利活用をすること」への支持・ 共感が高い傾向にあります。また、車社会としての利便性(項目(G))より、車がなくても移動しやすい環境を望む声(項目(F))が、若干ですが上回っています。
年代による差異
どの項目も、「そう望む」「どちらかと言えばそう望む」の合計で比較すると年代による差は顕著ではありませんが、「そう望む」という積極的支持のみで見てみると、3項目において、10%以上のばらつきが見られます。(A)商工業や経済的発展を望む(30代:17%<50代:49%),(E)空き家の利活用を望む(30代:26%<50代:45%)、(G)車社会に適応した整備を望む(30代:30%<40代:51%)。30年後の未来を、今の30代の皆さんがどう考えているか、さらなる把握と理解が必要です。
次に設問【7】の自由記述欄(30年後へのご意見)に寄せられたコメント全件で多用された言葉を紹介します。テキス トマイニングという解析ツールによるキーワードの抽出です。大きく表示されたものほど、語られた回数が多くなりま す。一つの参考としてご覧ください。
美しい田園環境を守ってゆくには
労力、資金が必要である。
——アンケート【7】コメントより
主なキーワードごとに、コメントを少し紹介します。
住みやすい
●田園環境でも住みやすくなると望ましい。高齢になり、車が乗れなくなってもバスで対応できるように ●子育てがしやすく若い世代が住みやすい環境づくりを ●若年層も少ないので消防団も担い手が見つからず、地域内の住宅を消防団員が一軒一軒訪ねて回るほどです。住みやすい環境を作るためには改善をしてもらいたいです
田園
●田園環境は地球にやさしくて、空気もきれいで満足です ●市内の平地林は減少しています。「田園都市」には平地林は欠かせない。これ以上、平地林を減らしてはいけません。「みどり豊かな市」には水田、畑、平地林が欠かせません
整備
●道路の整備、区画整理などバランスのとれた町作りをのぞむ ●小山駅西口周辺、市の玄関口として都市環境をもっと整備してほしい。空き家が駐車場になっているだけで新しい建物が少ないと思います。駅前は市の顔。もっと力を入れて欲しい ●交通の要衝と言われていたが北関東道や圏央道のICから外れ、道路網の整備が立ち遅れている。地域も道路整備が立ち遅れ、隣接する野木や結城の境目を見ると情けなくなる
未来への提案や希望
最後に、アンケートの自由記述やグループインタビューで語られた、未来の大谷南部地区や小山市の姿に ついて、「こうなったらいいな!」という希望や提案を含むご意見を紹介します。