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未来につなぎたい大切なものは? 〜それぞれの視点で持ち寄る広場〜 未来につなぎたい大切なものは? 〜それぞれの視点で持ち寄る広場〜

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「分からない」の先の「対話」を楽しむ

発掘調査作業員の武浩美です。

この仕事に就いてから半年が過ぎました。やはりまだまだ未熟者ですが、楽しさはは増すばかり。
たまらない暑さを乗り越え、今は寒さに怯えながらの日々。とはいえ今年の暖かさはやはり異常なのか、まだ凍える思いは体験していません。

年末になってやっと霜柱を見ることができました。発掘現場の霜柱はとても立派で美しくも見えます。寒いと思う日でも陽が差せば汗をかくほど。そんな日は先輩の「お天道様は大したもんだね。」の言葉に体も心も和らぎます。

発掘現場ではたくさんの「言葉」に出逢います。
私がこの仕事に惹かれた理由のもう一つがこの言葉です。

『古代人と対話ができるかもしれませんね』

これは回覧板で回ってきた遺跡発掘スタッフ募集のチラシにあった一言です。カウンセラーという仕事も持つ私。この「対話」という言葉に強く心を奪われました。ましてや、対話の相手は“古代人⁉︎”いない人との対話とは?このハテナも私の原動力になりました。

発掘作業というのは土器やお宝を見つけるばかりではありません。人の手が加わった土の跡からその当時の生活の様子などを探ることが重要だと聞いています。

私たち作業員は調査員の指示のもと作業を行います。私の見つけたカケラは何なのか?私の掘った穴は何なのか?そこの土はいつの時代の土なのか?

調査員の皆さんは私の好奇心に寄り添ってくださり、とても丁寧に教えてくださいます。この時間も仕事の楽しみの一つです。

作業の中では確実に人の手によって作られた痕跡ながら、それが何のための何のか分からないこともあります。そんな時に調査員さんは「分からないということが分かりました。」と仰います。

私はこの言葉がとても好きです。分からないという結論は“おしまい”ではなく“なぜわからないと判断するのか”のスタートになり、分からないと判断する理由が分かるまでその根拠を探ります。 この一連が私はとても好きです。

歴史は嫌い!と言っていた私。私が嫌いだったのは歴史の勉強が嫌いで、テストが苦手だったのだと最近では思います。なぜなら勉強ではほとんどが「分からなければならない」ものであり、「分からない」という答えは無いと思っていたからです。「分からない」が答えになるということに出会えたことは、とても新鮮な出来事でした。そして、その「分からない」を探ることの魅力がハテナにつながっていることを知るのです。

古代人との対話って?

私はそもそも「対話」を理解していませんでした。このハテナの発掘を手助けしてくれる人はすぐに浮かびました。聾者の小川さんです。出産後育児サークルでの出会いをきっかけに聾文化や手話を教えてもらいながら10年ほど親しくしてもらっています。

この出会いはカウンセリングをきちんと学び始めた頃と同時期で、この出会いはカウンセリングの学びにも繋がりました。多くの方からご相談いただけるのも、小川さんとの出会いが大きく影響していると感謝しています。

今回のハテナ「対話って?」は温存しないことに決めました。それには小川さんの協力が必要で「対話とは、なんだと思うか?」を質問しました。

手話が分からない方には私たちの会話はスムーズで、ややもすると私の手話が正しいように見えるかもしれません。残念ながらそうではなく、私の手話はとても未熟です。いわゆるカタコトな状態。カタコトな私に小川さんが合わせてくれ、私のカタコト手話を理解しようとしてくれるので会話が成立しています。会話の最中私が手話を間違えたり分からなかったりするので、その都度正してくれたり教えてくれたりしています。通じていない時伝わっていない時は、きちんと分かるまで尋ねてくれています。

対話について色々と手話べりました。動画の内容を正確に通訳できませんが、不要な遠慮のない語らい。分かりたい・伝えたいという気持ちが根底にある語らい。対等な心の関係性からなる語らいが対話ではないか。といことにたどりつき、ハテナが解消できました。

会話には言葉が大切なのかもしれません。特に日本文化・日本語文化では言葉がとても重要だと思われていると思います。ですが対話においては言葉は道具の一つであり、重要なものは別にあるように思います。

カタコト手話での小川さんとの手話べりでは「分からないことが分かる」ことが重要です。

「分からない」はゴールではなくスタートであると気づきました。そして小川さんとの語らいは「対話」なのではと思います。

分からないことを分りたいと思え、尋ねることができ答えてくれる相手がいる。分かることの楽しみを感じ、分かったからこそ次の分からないに辿り着く。この繰り返しに「豊かさ」を感じます。

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