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未来につなぎたい大切なものは? 〜それぞれの視点で持ち寄る広場〜 未来につなぎたい大切なものは? 〜それぞれの視点で持ち寄る広場〜

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ていねいな暮らしって、
なんだろう?

こんにちは。祇園城通りでパンの店iipanを営む立堀です。
前回の編集部からの紹介記事で、専門学校で東京に出て、そのまま東京に残り働いていた時に、益子のスターネットというカフェギャラリーの求人を目にしたところまで紹介していただきました。その後のこと、ちょっと長くなるかもしれませんが書いてみようと思います。

実は、益子町のスターネットには、その数年前に一度、行ったことがあったんです。地元・栃木はダサいと思い続けていた20代の私には、スターネットは衝撃でした。完璧な、シンプルだけど、洗練されて、異空間だ!と思いました。その頃、広告代理店の事務職をしながら、自分にしかできない表現で仕事ができないかなと、もんもんとしていた時期だったので、求人に応募してみようと思って。スターネットの求人には、お菓子とパンが作れる人、と書かれていてにもかかわらず、です。

ダメもとで行ってみて、私の履歴書をみたオーナーの馬場浩史さんから言われたのは、「きみ、食べ物のこと、何もやっていないよね。オーガニックのこと、わかってる? まずは、どこかで修行した方が良いよ。勉強して、もう一度おいで」・・・、たしかこんな内容のことでした。ダメもとは、やっぱりダメでした。

その後、プロ養成のパン教室に通いながら、3ヶ月契約の派遣の仕事をしていたんですが、その契約が終わるころ、馬場さんから突然連絡がきました。27歳の時です。「遊びにおいで」と言われたので、軽い気持ちで友人を誘って行ったんですが、そこでまさかの「どう?そろそろ働いてみる?」と、働かせてもらうことに。

それから、学ぶことばかりの修行生活のような毎日が始まりました。
野菜も果物も食べ物は全て、旬のもの。オーガニックのもの。基本的に、野菜の皮も、無駄にしません。今の旬の食べ物が何かも知らなかった私には、彼らのすることが全てちんぷんかんぷん。何かデザートを作ってと言われて作っても、ダメ出しの連続でした。明日、カフェで出すケーキは、前日にノートに計画を書いて見てもらいます。その段階からダメ出しの連続なんです。体力的にキツかったことと、自分はダメだと思い込んでいたからか、夏の暑い盛りに倒れて入院してしまいました。職場に穴を開けてしまったからクビになると思っていたら、退職する先輩の後を引き継がせてもらえることになって、それから次第に、作らせてもらうケーキにも「いいじゃないの!」とお褒めの言葉をもらえるようになっていきました。

ケーキにもようやく合格が出るようになってお店に出していたロールケーキ

オーナーやスタッフがお店から続く益子の森へ散歩に入り、拾ってくる山栗。
小さくて下ごしらえが大変だけど、パンに練り込んで余りなく活用していた。

オーナーもカフェが忙しい時は、厨房に入って皿洗いをしていました。そんな時に、「最近、体調はどう?」と気にかけてくれて、わたしは「大丈夫です! リポ○タンを飲んできました!」と明るく答えて、叱られたことがありました。旬の素材のこと、オーガニックのこと、その価値をお客さんに嘘偽りなく伝えていくためには、自分の暮らしからきちんと整えることが大切。なのに、栄養ドリンクを飲むなんて、そういう教えがわかっていなかったんですね。衣食住に関して、すごい人たちが目の前にいるのに、ついていくのが精一杯でした。

何もないところからでも、料理でも、空間のしつらえでも、花いけでも、パッと生み出す、すごい人たちのセンスも素晴らしいものだったけど、何より、目に見えにくいところでの、ていねいさを学べたように思います。夜8時くらいまでみんな働いているんですが、賄いも作ってもらっていました。地元のオーガニックのもの、旬ものも。そして、無駄にしないこと。生ゴミが出たら堆肥にするし、カスタードクリームも少しでも余りそうであれば、翌日ゆるく伸ばしてプリンにするとか、野菜も無農薬だから、使えるものは皮を剥かずに使うし、徹底していました。

私も自分のお店を持って、今は休んでいるけど、生ゴミを堆肥にすることはやっていた時期があって、日々の生活の中でも、残ったものを何かに使えないかな、と、まず考えてみるのは、基本になっています。今もパンづくりは、干しぶどうを水に浸してぷくぷくと発酵してきたところに、全粒粉をあわせて何回か繰り返して酵母をおこしているんですけど、そんな自家製酵母づくりも、スターネット時代に、柿から酵母を起こしてみた経験から繋がっています。

2004年、スターネットのことが掲載された雑誌の1ページ。左端のオーナー馬場さんの隣が、私。

今、盛んに言われるSDG sとかサスティナブルとか、そんな時代の先を行っていた職場だったと思います。このコラムのお声かけをもらって、すぐに思い出したのが、このスターネットでの経験で、今思えば、サスティナブルの基本が、ていねいに暮らすということなんだと思います。 

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