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発掘現場で考える、日々の豊かさはじめまして武浩美です。
私は何者か? 実は私もよく分かりません。なぜ私がそう思うのかというと、よく「武さんは何をされている方なのですか?」と聞かれるからなのだと思います。そして私は場面ごとで何者なのかが違うので、人からそのように思われるのだとも思っています。
そんな私の今の「仕事」は発掘調査作業員。
この仕事をみなさんはご存知でしょうか? 私が主にやっている作業は、色と硬さの違いをヒントに土を掘っては運び…掘っては運びの繰り返し。その過程で土器や石器に出逢います。私の奥底にしまってあったハテナと、好奇心から飛び込んだこの仕事。「楽ですか?」と聞かれれば、楽ではありません。ですがとても楽しいのです! そしてこの仕事に就いてから多くの「豊かさ」に出会っています。
今回は、心の奥底にしまっていた「ハテナ」と、この仕事を通して出会った「豊かさ」について書いていこうと思います。
歴史嫌いで疲れることが嫌い。運動も嫌い歩くことすら嫌いな私が、なぜこの仕事に瞬間的に飛びついたのか?自分でも不思議でした。
思えば私は小学生の時にあのオレンジフェンスの向こう側に興味を持ったのだと思います。私が子供の頃は市内でもあちらこちらで開発が進みました。その頃に見ていたオレンジのネットと土をひたすらに掘る大人達。「あの中では何が行われているんだろう?」と興味を持っていた私は「土の中の昔のものを見つけてるんだよ。」そんな感じのざっくりとした説明に、昔のものとは?と思っていました。
そんな出来事と同じ頃に小山市立博物館が開館したように記憶しています。博物館には興味はなかった私ですが、まだクーラーが贅沢品だったあの頃。確か企画展が無い日は無料でした。自転車で10分足らずの博物館。そこはキンキンに冷えていて、夏休みには最高の居場所。正直博物館には興味はなく、ただ涼みに通っていました。ですが涼みに行っているとはいえ、いるからには館内を何周もするしかなく。展示してあった小山の歴史が頭の中に刷り込まれます。また館内に動画を視聴できる設備があり、そこで小山市の農産業の紹介動画を見ることができました。内職で糸紡ぎや間々田紐をやっていた近所のおばあちゃんが映っていたので、それもひたすらに見ていました。そのうちに展示してある縄文式土器が、オレンジフェンスの中で見つかったものだと理解した私。これが土の中で見つかるって?そのハテナを置き去りに生きてきたのだと思います。
あれから数十年。置き去りだったこのハテナが今の私の原動力になっていると感じています。
そして、この仕事を始めてから「豊かさ」の解釈が変化してきました。以前は「豊かさ」について“財産”や“収入”のような表現しやすいものに囚われていたと思います。
変化のきっかけの一つが、現場の皆さんとの出会いです。現場に集まれば皆“発掘調査員”ですが、皆さん本業や前職が違います。
たとえば私の紹介文にも添えられた写真は、カメラマンをされている先輩に撮っていただきました。
手に持っている“手スコ”は大工をされていた先輩に作っていただいたものです。発掘作業員さんの中には、会社を経営されてた方もいますし、農業をされている方や益子焼の陶芸家の方もいます。言い換えれば多様なプロの集団でしょうか。このプロ集団の経験に基づいた知識や知恵・技術はとても素晴らしく、遺跡の発掘だけではない様々な情報に触れ学びを深めることができます。そしてこの学びは眉間にシワを寄せる必要はなく、冗談やユーモアに溢れる会話の中からスッと頭と体に染み込みます。
生きた学びと遊びのある会話。工夫を知る、工夫から学ぶ。足りないを知る、過ぎるを学ぶ。そんな日々に私は「豊かさ」を感じているのです。
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