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田園環境都市おやまビジョン
について
田園環境都市おやまビジョン
について
田園環境都市おやまビジョン策定に際して
小山市長浅野正富
「田園環境都市おやまビジョン」本編冊子・巻頭に掲載しているメッセージです
持続可能が困難となった時代のビジョン
1972年にローマクラブによって発表された「成長の限界」を嚆矢に始まった国際的な持続可能な社会を目指す取組みは、約50年の時を経てSDGs、カーボンニュートラル、ネイチャーポジティブの形で世界中で取り組むものとして推進されていますが、年々異常気象は深刻になり、果たして私たちの世界が破局に向かう針路から持続可能な方向に確実に舵を切ったと言えるのか甚だ心許ないのが現状です。
昭和29(1954)年に小山町と大谷村が合併して市制が施行され70周年を迎えた小山市は、現在の市域の人口がこの70年の間に約8万3千人から約16万6千人に倍増し平成17(2005)年に人口16万人を突破した年に人口県下第2の都市となり、急成長を遂げてきました。しかし、日本自体は、1980年代にはジャパンアズナンバーワンと経済の絶頂期を迎えて2000年に世界2位までになった国民一人当たりのGDPも、その後の経済の停滞と少子高齢化による人口減少の中で2024年には世界39位(出典:IMF2024年10月時点)まで低下してしまい、今や日本は先進国ではないと自認せざるを得ないほどに縮小と衰退の途上にあります。
このような中、市の将来を考えるときには、70年間の成功体験から安易に楽観的になることは許されません。今で有効と考えられていたシステムを全て見直さない限り再生の余地がないほどに厳しい国内情勢の下で、市が現状抱えている問題を正確に把握し、その解決のためにいち早く対応して市の持続可能な発展を図らなければなりません。そして、次の世代が30年後市制施行100周年を迎えるときには人口だけでなくあらゆる面で真に県下第2と呼ぶにふさわしい都市として確固とした地位を築かなけれはばならないのです。このたび策定した「田園環境都市おやまビジョン」は、これから30年間の取組みによって実現を目指す持続可能な小山市の未来像として描いたものです。
たて糸になる地区別ビジョンとよこ糸になる行政分野別ビジョン
明治22(1889)年に町村制が敷かれたとき、それまでの小さな村が整理統合され、小山町と大谷村、間々田村、生井村、寒川村、豊田村、中村、穂積村、桑村、絹村の10地区となり、昭和29(1954)年の市制施行から11年後の昭和40(1965)年までに合併を重ねて現在の小山市になりました。
もともとの10地区が市の多様性を形作っており、それらの地区ごとの特性は、これから先も大切にしていかなければなりません。また、市全体のビジョンをつくるうえでは、あらためて10地区それぞれの自然や地区の成り立ち、今までの営みや文化・伝統、現在の住民の暮らしと意識を確認することによりはじめて、これからの市全体が進むべき道が見えてきます。
その観点から、風土性調査と名付けた地区ごとの調査とそれを基礎として地区別ビジョンづくりを行うことを全体ビジョンの土台とすることにしました。10地区のうち大谷地区は南北に広いため、便宜的に北部・中部と南部に分け、本来の10地区を11地区として風土性調査と地区別ビジョンづくりを行っています。また、地区のいくつかまたは市全体に共通する課題がありますので、それらを、地区だけでは対処できない課題として行政分野別に抽出し、30年後のあるべき姿を明らかにする作業を行い、行政分野別ビジョンとしました。
このように、たて糸になる地区別ビジョン、よこ糸になる行政分野別ビジョン、そのたて糸とよこ糸がしっかり組み合わさることで、1枚の市全体のビジョンが織り上がります。
最初の風土性調査は、令和3(2021)年12月に小山市で開催した第20回全国菜の花サミットにおいてこれからのまちづくりの試みとして発表できるよう、先行調査として生井地区を対象に実施しました。令和4(2022)年度から本格的に風土性調査を順次各地区で実施し、令和5(2023)年度におやま市民ビジョン会議を立ち上げて地区別ビジョンの策定を開始し、同じく令和5(2023)年度には行政分野別ビジョンの基礎資料とするため大々的に市民アンケートを行うなど、これまで3年以上にわたって作業と検討を行ってきた結果、この田園環境都市おやまビジョンが完成しました。
持続可能性と環境問題を重視したビジョン
田園環境都市おやまビジョンを策定するうえで、当初最も重視していたのは環境の問題です。私が令和2(2020)年に市長に就任して間もなくの頃は、公約であった「田園環境都市おやまのまちづくり」については、以下のように説明していました。
「小山市は、農業、商工業のバランスが良く、東西南北の交通の要衝にあり、市街地の周辺に農地や平地林の田園環境が広がって思川が注ぎコウノトリが定着・繁殖したラムサール条約湿地/渡良瀬遊水地に繋がるすばらしい環境を有する首都圏の中で有数の田園環境都市です。ユネスコ無形文化遺産に登録されている本場結城紬は、桑の葉を食べて育つ蚕の繭から作られた真綿を紡ぐことにより生産される糸を原料とするオーガニックな伝統技術で田園環境都市に相応しい遺産です。また、国の重要無形民俗文化財に指定された『間々田のじゃがまいた』も五穀豊穣や疫病退散を祈る農村の伝統民俗文化で田園環境都市の重要な構成要素です。このような 先人たちの連綿と続けられてきた営みによって形成された田園環境都市としての魅力あふれる小山を将来世代に確実に繋ぎ持続可能なまちにしていくことが『田園環境都市おやま』のまちづくりです。」
このように田園環境の素晴らしさを強調し、それを維持することを主眼とした説明でした。
持続可能性の議論は資源と地球の有限性を出発点としており、地球環境の容量に人類の活動を収めていかない限り持続可能な世界は構築できないとされているからこそ、小山市を持続可能にしていくためには、私たちの生活の基盤でありかつ市の最大の魅力である都市環境と田園環境のバランスの良さを維持することが必要ですし、そのためにはこれ以上田 園環境を損なわないことが最も重要になります。
ビジョンが取りまとめられた現在においても、市における田園環境を維持していくことの重要性はいささかも変わりませんが、田園環境都市おやまのまちづくりとして環境問題をまず強調してしまうことで、一定割合の市民に、経済や子育て、高齢者、公共交通などの問題が置いてきぼりにされているかのような誤解を与えかねないことが懸念されました。
そこで、あらためてこのまちづくりが究極に目指していることを確認しました。
ビジョンの最上位にある私たちのより良い暮らし
現代においてなぜ持続可能性や地球環境問題が最も重要な問題として扱われているかといえば、それらの問題を解決しない限り、将来にわたって私たちが安心して暮らすことができない、より良く暮らすことができない状況にあるからです。環境のために私たちが暮らしているのではなく、私たちがより良く暮らしていくために環境問題を解決しなければならないという関係性に気付けば、私たちが将来にわたって安心して、より良く暮らし続けられるということが持続可能性や地球環境問題よりも普遍的な上位の目標であることがわかります。その目標の下で、第二次世界大戦直後の国土が焦土になっていた時代には、衣食住の確保、産業の復興こそが最も重要な課題でした。最低限の衣食住が確保されるようになり、産業が復興して、高度経済成長に入った時代では、もっとお金を稼ぎもっと便利な生活を送るようにしていくことが、安心してより良く暮らし続けるために必要なことになりました。そして大量生産、大量消費、大量廃棄の時代が続き地球が悲鳴を上げるようになって、私たちは慌てて持続可能性や地球環境の保全を唱え出し、生態系サービス(自然の恵み)の重要性に思いを巡らすようになったのです。
渡良瀬遊水地がラムサール条約湿地になり、そこでコウノトリが繁殖することが注目されるのも、1900年以来世界中で64%もの湿地が失われ、かつては日本中に生息していたコウノトリが乱獲や農薬多用による生息環境の悪化で1971年に一旦は野生絶滅し、ロシアから贈られたコウノトリが人工で飼育繁殖されて2005年に兵庫県豊岡市での放鳥により野生復帰を遂げ、その後東日本初として渡良瀬遊水地でも野生繁殖したからです。あちこちに湿地が存在し、コウノトリが当たり前に生息していたかつての持続可能な世界では、渡良瀬遊水地もコウノトリも目立つ存在ではなかったことでしょう。
市民が将来安心して、より良く暮らしていくための条件はその時代によって変わりますが、市民が将来も安心して、より良く暮らしていけるようにしていくという民主国家における政治や行政の根本的な使命はいつの時代も変わりません。
ですから田園環境都市おやまビジョンは、その使命に忠実に、全ての市民のより良い暮らしの実現を目指すことを最上位の目標に掲げ、その目標が達成された環境をはじめ経済、社会が理想的な状態にある30年後のあるべき小山市の姿を明らかにしようとしました。
より良い暮らしとウェルビーイング
そして、小山市では、より良い暮らしという概念は、最近広く使われているウェルビーイングと同義と捉えております。厚生労働省の定義では、「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念」とされており、令和6(2024)年5月に閣議決定された第六次環境基本計画は環境政策の最上位概念としてウェルビーイング/高い生活の質を設定しました。
ウェルビーイングはもともと世界保健機関(WHO)憲章の中で使われた言葉ですが、様々に定義されており、厚生労働省の定義に限定されずに広く幸福や健康、生活の質を表す概念として使われています。どのように定義されても、共通していることは、刹那的なものではなく社会性を持ち他者との関係性を前提としているものとして理解されていることです。しかし、「○○において良好な状態」は、個々人の主観や置かれた状況によって差異がありますので、個人を最大限尊重してウェルビーイングを捉えようとすると、一人ひとりのウェルビーイングの多様性を認めざるを得ません。したがって、全ての市民のより良い暮らし(ウェルビーイング) の実現を目指すとしたときに、それが実現できたかを確認するためには、全ての市民のウェルビーイングが何かを把握することが必要となり、現実的に実現の確認は不可能と言わざるを得ないでしょう。しかし、全ての市民のウェルビーイングの実現に近づくための客観的条件を整えていくことは、全ての市民のウェルビーイングを実現するために何が必要かを、最大公約数として探ることによって可能になるのではないでしょうか。
かつてイギリスのジェレミー・ベンサムは最大多数の最大幸福という概念を唱えて功利主義の始祖と呼ばれ、それに加えて人間の尊厳や個人の自由の尊重が必要だとしてジョン・スチュアート・ミルが功利主義を補強しましたが、今、時代の趨勢(すうせい)はウェルビーイングの概念を用いて、誰一人取り残すことのない全ての市民の幸福の問題を追求するようになったといえるでしょう。田園環境都市おやまビジョンもその趨勢の中で生まれました。
小山から世界に向けた田園環境都市のまちづくり
1970年代から国際的に広く支持されてきた「Think Globally, Act Locally」、「地球規模で考え、足元から行動せよ」という意味のスローガンがあります。しかし、地球温暖化の進行による異常気象と自然災害が頻発し、毎日のように私たちの日常の暮らしを大きな脅威が襲うようになった今、地球規模の問題・行動と足元の問題・行動を切り離して捉えようとすることの方にこそ無理があり、地球全体と私たちの足元はかつてなく強くつながってしまいました。そして、持続可能性を全く無視するかのように破壊と殺戮を繰り返す国際紛争が世界中に拡大し、私たちの経済生活はもとより生存自体が大変な危機に直面していると言っても過言ではなく、混乱と無秩序にあふれた情報への感度を低くしなければ不安で夜も眠れないような状態にあります。本当に私たちがより良い暮らしを求めていくならば、小山市の問題が県、国、世界と通底している中で、小山市を変えていくことが世界までをも変えていくことにつながっていることに想像力を働かせて取り組まなければならないでしょう。
全ての市民がより良く暮らせる、つまり個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態が実現されることを目指していく、そのような小山市を市民・事業者と行政が一体となって作っていくためのこれから30年のビジョン、「田園環境都市おやまビジョン」がここに完成しました。
さあこのビジョンの下、30年後の素晴らしいゴールを目指し、あなたも一緒に歩み出してください。