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生物多様性調査レポート・3
光合成をやめた植物たち

今回は桑地区・鉢形と間々田地区・粟宮の樹林でのレポートです。
前回、前々回は、キンランなど光合成もして菌からも栄養をもらうような植物をご紹介してきました。今回は、マヤランとタシロランというランの仲間で、菌従属栄養植物であり、「光合成をやめた植物」と呼ばれる植物を紹介します。初夏の薄暗い樹林の中に花を咲かせていました。

どちらも「環境省レッドリスト2020」と「2018レッドデータブックとちぎ」に記載された絶滅のおそれのある植物です。マヤランは環境省の絶滅危惧Ⅱ類、栃木県の絶滅危惧Ⅰ類で、タシロランは環境省、栃木県ともに準絶滅危惧に指定されています。

「2018レッドデータブックとちぎ」によると、マヤランは、亜熱帯から暖温帯の常緑広葉樹林の林床に生育しており、栃木県が分布の北限にあたります。森林伐採や産地北限が生存への脅威と書かれており、近年少数の生育が確認されているとのことです。

タシロランもマヤランと同様に熱帯~暖温帯の常緑広葉樹林に生育し、栃木県が分布の北限にあたります。栃木県では近年発見された植物で、寒波や常緑樹林の伐採などが減少要因になるとされています。

「植物」というと、緑の葉があり光合成をするというものが多いなか、菌従属栄養植物は、「光合成をやめた植物」ともいわれており、光合成をせず、菌類から栄養や水をもらって生きている植物です。自分で栄養を作らず、菌から一方的に栄養をもらっています。

マヤランは、茎は緑っぽいものの葉はなく、7~8月に数輪の白~緑黄色の花を咲かせます。タシロランは全体が白っぽい体をしており、5~7月頃白色の花を咲かせます。

マヤラン
タシロラン

マヤランの種子は微細種子と呼ばれるとても小さい種子で、風で広がります。種子は菌の力を借りて発芽し、光合成をしないため、菌の力を借りて根を育て、数年後に花を咲かせます。葉も茎もないので花を咲かせるときに地上に出てきます。

これらの菌従属栄養植物は、もともとは光合成をする植物だったのに、進化の道のりで光合成をやめてしまったそうです。

マヤランの場合はベニタケというキノコの仲間、タシロランはヒトヨタケというキノコの仲間から栄養をもらっていて、ベニタケやヒトヨタケは特定の種類の木と共生しています。

光合成をしないことから暗い樹林の中でも生きていくことができますが、発芽や成長すべて菌から栄養をもらっているということは、菌がいる安定した森が必要です。こういった植物に栄養を与えることができるだけの余裕がある、豊かな森があるととらえることもできるそうです。

また、今回ご紹介した植物は、熱帯から暖温帯の植物ということで、関東以西の暖かい地方が主な分布域となっており、栃木県付近は北限にあたります。そういった植物が温暖化などの環境の変化により近年増加傾向にあるともいわれており、今後どうなっていくのか注目されます。

謎の多い植物ですが、光合成をやめた植物という身近にも不思議な植物が生きているということからも、まだまだ身近なところにもいろいろな発見があるかもしれません。そして身近なところにも貴重な植物が生育している自然があるということをこういった生きものたちとの出会いから感じていただけたらと思います。

参考リンク
科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」
研究者へのインタビュー記事「助け合い?せめぎ合い? 光合成をやめた植物の謎を追う 末次健司さん」>>記事

国立科学博物館ウェブサイト
私の研究 -国立科学博物館の研究者紹介-「共生菌からみたマヤランの不思議な暮らし」>>記事

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