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生物多様性調査レポート・7 「城山公園の昆虫」編

みなさん、こんにちは。景域計画の古賀と申します。今回は「生物多様性基礎調査」(小山市内の動植物調査)の調査結果から城山公園の昆虫についてご紹介したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

小山市の自然というと、渡良瀬遊水地や思川、鬼怒川などの河川敷を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、小山市役所からすぐ近くの城山公園にも多様な生きものが生息しています。2022年の春と夏の調査でなんと約140種の昆虫が確認されました。

城山公園は、国指定史跡の祇園城跡に指定されており、昔から残されてきた緑地で、桜や紅葉の時期を中心に小山市民の自然とのふれあいの場となっています。東側に小山市街地が広がり、西側には思川があります。

城山公園では明るい樹林や草地に生息する昆虫が多く確認されましたが、思川に近いこともあり水辺に生息する昆虫も確認されました。まずは樹林の昆虫を紹介します。

コナラやクヌギの樹液では、子どもたちに人気のカブトムシやノコギリクワガタをはじめ、カナブンやノコギリカミキリなどの様々な昆虫が確認されました。この他にも樹液にはルリタテハやサトキマダラヒカゲなどのタテハチョウの仲間、ハエやアリなど様々な昆虫が集まってきます。樹液にはスズメバチなどの危険な昆虫も集まってくるので、注意して観察しましょう。

ノコギリクワガタ オス
ノコギリクワガタ メス
カナブン
カブトムシ
オオスズメバチの女王
樹液に集まるオオスズメバチ

木の幹や葉の上、地面など様々な環境を昆虫は利用しています。今回の調査では少し珍しい瞬間であるミンミンゼミの羽化を日中に見ることができました。通常、セミは夜間に羽化しますが、稀に昼間に羽化することがあります。調査をしていて、このような珍しい瞬間に遭遇すると、嬉しくなりますね。

日中に羽化していた ミンミンゼミ

昆虫の多くは木の幹や葉に隠れていて見つけるのが難しいと思う方もいるかもしれません。そんな方におすすめの観察方法として手すりや柵、トイレの壁などの人工物に止まっている昆虫を探すというものがあります。調査では、擬態の名手であるナガゴマフカミキリやナナフシモドキが擬木柵やトイレの壁面で見つかりました。

擬木柵で休むナガゴマフカミキリ
トイレの壁にいたナナフシモドキ

芝生広場や花壇では、シオカラトンボやハラヒシバッタ、ツマグロヒョウモン、アゲハなど明るい環境を好む昆虫が確認されました。

トンボの幼虫であるヤゴは水中で生活し、産卵や交尾などの繁殖は水辺で行われることから、トンボは水辺の昆虫の印象が強いですが、羽化した後に周辺の樹林や草地で過ごし、産卵や縄張りを守るための栄養を蓄えます。シオカラトンボは、河川敷などの明るい草地を好みます。思川など近くの水辺で羽化したシオカラトンボが、似たような環境の花壇に飛んできたものと考えられます。

シオカラトンボ
アゲハ

芝生近くの植物があまり生育していない湿った地面では、ノミバッタが確認されました。体長5mm程度の小さなバッタですが、ジャンプ力が非常に強く、驚くことに体長の100倍以上の高さまで飛ぶことができます。

ノミバッタ

現在改定を進めている「生物多様性おやま戦略」の上位計画であり、国が定める「生物多様性国家戦略2023-2030」が令和5年3月に策定されました。その中で、「ネイチャーポジティブ」※1や「30by30」※2といった目標が大きく掲げられています。ここでは、国立公園やラムサール条約湿地のような貴重な自然環境だけでなく、身近な自然環境も守り活用していくことが重要とされています。

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※1 持続可能な社会の実現のために必要な自然の損失を止め回復軌道に乗せること。 
※2 「ネイチャーポジティブ」の実現のために2030 年までに陸域の30%と海域の30%を保全・保護を目指す目標のこと。
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リンク>環境庁ホームページ「生物多様性国家戦略2023-2030」
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城山公園は、決して生きものだけのために整備、管理されている公園ではありませんが、多くの生きものが生息しています。公園はお花見や運動の場としてだけでなく、多くの生きものの生息環境であり、そういった生きものを観察できる場でもあります。人と生きものが共存できる環境を作り出すことができれば、さらに多くの生きものがみられる公園になるはずです。一人一人が身近な自然に興味を持ち、何ができるか考えていくことが、「ネイチャーポジティブ」の実現に向けた第一歩になると思います。なにより、多様な昆虫の観察は、新たな発見にあふれていて面白いことですので、身近な昆虫との出会いを楽しんでいただけたら幸いです。


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